Last Updated on 2025年12月5日 by 藤田 太
連帯保証人や保証人が付いている借金を任意整理すると、「保証人に迷惑がかかるのでは?」と不安になる方は少なくありません。実は、任意整理における保証人への影響は、手続きの選び方や債務の種類によって大きく変わります。そのため、手続きを始める前に「どの債務を整理対象にするか」「保証人への影響をどう避けるか」を整理しておくことが重要です。
この記事では、特に任意整理による債務整理をした場合について、保証人への影響や、迷惑をかけない方法を解説します。正しい知識を持つことで、あなた自身と保証人、双方にとってより良い選択肢が見えてくるはずです。
任意整理で保証人に迷惑はかかる?影響の全体像
任意整理を検討する際、多くの方が最も心配されるのは「保証人への影響」ではないでしょうか。結論から申し上げると、任意整理では保証人がついている債務を整理の対象から外すことで、保証人への直接的な請求を回避できる可能性があります。ただし、そのためには債務の構造や保証人の立場を正確に把握し、整理する債務を慎重に選ばなくてはなりません。
保証人との関係を守りながら、あなたの経済的な再建を目指すために、まずは任意整理の基本的な仕組みから理解していきましょう。
任意整理・他の債務整理との違い
債務整理には「任意整理」「個人再生」「自己破産」という3つの方法があります。保証人への影響という観点から見ると、それぞれに大きな違いがあるため、この点を理解することがあなたと保証人、双方にとって最善の選択をする第一歩となります。
任意整理の最大の特徴は、整理する債務を自分で選べることです。 例えば、クレジットカードのリボ払い(保証人なし)と奨学金(親が連帯保証人)、自動車ローン(配偶者が保証人)の3つの借金を抱えているとしましょう。この場合、任意整理では「保証人がいないクレジットカードのみを整理対象にする」という選択ができます。つまり、奨学金と自動車ローンはこれまで通り返済を続けることで、親や配偶者への請求を防ぐことが可能となるのです。
一方、個人再生や自己破産は、原則としてすべての債務が手続きの対象となります。これは裁判所を通じた公的な手続きのため、特定の債権者だけを除外することが公平性の観点から認められていません。その結果、保証人がついている債務も必然的に整理対象となり、債権者は主債務者(あなた)への請求と同時、またはそれに先立って、保証人に対して残債務の一括返済を求めることになります。
| 債務整理の種類 | 任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
| 保証人付き債務の扱い | 整理対象から外せる (選択可能) | すべての債務が対象 (原則外せない) | すべての債務が対象 (原則外せない) |
| 保証人への請求 | ・対象外にすれば請求なし ・対象に含めれば請求発生 | ・あなたの債務が減額されても、保証人には全額請求 | ・あなたの債務が免責されても、保証人には全額請求 |
| 請求のタイミング | ・対象外なら請求なし ・対象に含めれば交渉開始と同時に請求 | ・手続き開始と同時に一括請求 | ・手続き開始と同時に一括請求 |
| 具体的な例 (借金総額500万円、うち保証人付き200万円) | ・保証人付き200万円を対象外にすれば、保証人への請求はゼロ | ・あなたの債務が100万円に減額されても、保証人には200万円全額の請求 | ・あなたの債務が免責されても、保証人には200万円全額の請求 ・保証人が支払えない場合は、保証人自身も債務整理を検討する可能性あり |
このように、任意整理は保証人への影響を最小限に抑えられる唯一の債務整理の方法と言えます。ただし、これは「保証人付き債務を整理対象から外せる経済的余裕がある場合」に限られます。もし収入状況から見て保証人付き債務も含めて整理しなければ生活再建が難しい場合は、保証人との事前相談や別の解決策を検討しましょう。この判断には専門的な知識と経験が必要なため、弁護士や司法書士といった専門家のアドバイスが重要です。
どんな場合に保証人に請求がいく?
多くの方が「任意整理をすると自動的に保証人に請求が行く」と誤解されていますが、実際にはもう少し複雑な仕組みになっています。
原則として、保証人への請求が発生するのは、債権者が主債務者であるあなたについて「契約通りの返済ができなくなった」という判断したときです。任意整理において、これが具体的にどのタイミングで起こるのか見ていきましょう。
まず、保証人付き債務を任意整理の対象に含めた場合です。あなたが弁護士や司法書士に任意整理を依頼すると、受任通知という書面が各債権者に送付されます。この通知を受け取った債権者は、「主債務者が返済困難な状態にある」と判断し、多くの場合、保証人に対して残債務の一括返済を請求します。これは法律上の「期限の利益の喪失」という効果によるもので、本来なら分割で返済できた債務が、一括で支払わなければならない状態になるのです。
例えば、奨学金400万円(親が連帯保証人)を任意整理の対象に含めると、日本学生支援機構はほぼ確実に親に対して400万円の一括請求を行います。これは、任意整理の交渉が成立する前の段階で起こるため、「交渉がまとまれば保証人への請求も止まるかもしれない」という期待は持たない方が良いでしょう。
次に、保証人付き債務を整理対象から外しても、その後の返済が滞った場合には請求のリスクがあります。任意整理では、整理対象外の債務はこれまで通り返済を続けることが前提です。しかし、返済計画に無理があったり、想定外の事態(収入減少、突発的な出費など)により、数ヶ月にわたって支払いが遅れてしまうと、債権者は同じく「期限の利益の喪失」を理由に保証人へ請求を行う権利を持ちます。多くの契約では、2〜3ヶ月の延滞で保証人への請求が可能になる条項が設けられています。
さらに注意が必要なのは、任意整理後の和解条件を守れなかった場合です。任意整理で整理した債務については、通常3〜5年の分割返済計画を債権者と合意します。しかし、この和解契約には「2回以上の支払いを怠った場合、残債務を一括で支払う」といった条項(いわゆる「期限の利益喪失条項」)が含まれるのが一般的です。万が一、和解後の支払いが滞ると、整理対象外として残しておいた保証人付き債務にも影響が及ぶ可能性があります。債権者によっては、「和解条件の不履行」を理由に、他の債務についても期限の利益喪失を主張してくるケースがあるため、注意が必要です。
では、どのようなケースなら保証人への請求を避けられるのでしょうか。 最も確実なのは、前述の通り「保証人付き債務を任意整理の対象から完全に外し、かつその債務の返済を確実に続けられる場合」です。この場合、債権者から見れば契約通りの返済が行われているため、保証人に請求する理由はありません。
ただし、この選択をする場合には現実的に検討が必要です。例えば、月収25万円の方が、保証人なしの債務(月5万円返済)を任意整理で月2万円に減額できたとしても、保証人付きの債務(月3万円返済)と合わせて月5万円の返済が続くことになります。生活費や家賃などを差し引いて、本当にこの返済計画を3〜5年続けられるのか、慎重に見極めるべきです。
また、一部の金融機関では、保証人との間で別途交渉できる可能性もあります。あなたが任意整理を行う前に保証人と債権者に事前相談し、「主債務者は月1万円、保証人が月1万円ずつ分担して返済する」といった形で合意できれば、一括請求を避けられるケースもあります。ただし、これは債権者の善意に依存する部分が大きく、確実な方法とは言えません。
保証人への請求リスクを正確に判断するには、あなたの収支状況、各債務の契約内容、債権者の対応方針など、多角的な分析が必要です。
保証人・連帯保証人の法的な違い
「保証人」と「連帯保証人」は似たような言葉ですが、法律上は大きく異なる権利と責任を持ちます。この違いを理解することは、任意整理を検討する上で非常に重要です。
まず、一般の保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」という2つの重要な権利があります。催告の抗弁権とは、債権者が保証人に請求してきた際に「まず主債務者(あなた)に請求してください」と主張できる権利です。検索の抗弁権とは、「主債務者には返済できる財産があるので、まずそちらから回収してください」と主張できる権利を指します。
例えば、あなたが友人を保証人として100万円を借りたとしましょう。もしあなたの返済が数ヶ月滞った場合でも、保証人である友人は債権者に対して「本人にまだ給料収入があるはずだから、まず本人に請求してほしい」と要求できます。また、あなたが自動車などの資産を持っている場合、「主債務者にはまだ資産があるので、そこから回収してください」と主張することも可能です。つまり、一般の保証人は「最後の砦」としての位置づけで、ある程度守られた立場にあると言えます。
一方、連帯保証人にはこれらの権利が一切ありません。法律的には、連帯保証人は主債務者とほぼ同等の責任を負う立場とされています。
あなたが返済を1回でも遅延した場合、債権者は「あなた」と「連帯保証人」のどちらに対しても、好きな方から先に請求できます。極端な話、あなたに十分な収入があり返済能力がある状態でも、債権者が「連帯保証人の方が資産がありそうだ」と判断すれば、いきなり連帯保証人に全額請求することも法律上は可能だということです。また、あなたがまだ自動車や預金などの資産を持っていても、連帯保証人は「まず主債務者の資産から回収してほしい」と主張することはできません。
この違いは、任意整理における債権者の対応にも大きく影響します。保証人付きの債務を任意整理の対象に含めた場合、連帯保証人であれば債権者はほぼ確実に、受任通知が届いた段階で連帯保証人に一括請求を行います。一方、一般の保証人の場合、債権者はまずあなたの資産状況などを確認し、それでも回収が困難と判断してから保証人への請求に移る、という手順を踏むケースもあります(ただし、実務上はこのようなケースは少なく、多くの場合速やかに保証人にも請求が行われます)。
では、実際の契約ではどちらが多いのでしょうか。結論から言えば、現在の金融実務では圧倒的に連帯保証人が多いのが実情です。特に以下のようなケースでは、ほぼ間違いなく連帯保証人が求められます。
・奨学金
日本学生支援機構の奨学金では、親や親族が連帯保証人となるのが一般的です。機関保証制度を選択しない限り、必ず連帯保証人が必要です。
・住宅ローン
収入合算などで配偶者が関与する場合、連帯保証人または連帯債務者として契約することが多くあります。
・賃貸住宅の保証人
近年は保証会社の利用が増えていますが、親族が保証人となる場合は連帯保証人とされることがほとんどです。
・事業資金の借入
個人事業主や中小企業経営者が融資を受ける際、配偶者や親族が連帯保証人となるケースが大半を占めます。
一方、個人間の借金や一部の消費者金融(ただし現在は保証人を求めないことが多い)など、限られたケースでは一般の保証人となっていることもあります。
あなた自身の債務について、保証人なのか連帯保証人なのかを確認するには、契約書の記載内容を見るのが最も確実です。契約書には「保証人」「連帯保証人」のいずれかが明記されているはずです。もし契約書が手元にない場合は、債権者に問い合わせて確認できます。
保証人に迷惑をかけずに任意整理を進める方法
任意整理には保証人のいる債務を避けて手続きを進められる柔軟性があります。ただし、状況の見極めを誤ると、かえって関係を悪化させることにもつながりかねません。ここでは、保証人との関係を守りながら、現実的に借金問題を解決するための方法をお伝えします。
保証人付きの債務を任意整理から外す
まず最も現実的な選択肢が、保証人のついている借金だけを任意整理の対象から外すやり方です。任意整理は、裁判所を通さず、弁護士や司法書士などの専門家が債権者と個別に交渉する手続きです。そのため、「どの借金を整理するか」を自分で決めることができます。
例えば、3社から合計200万円の借金があり、そのうち1社だけ保証人がついている場合、その1社は整理の対象から外し、残り2社だけを任意整理します。保証人付きの借金については、これまでどおり自分で返済を続けることで、保証人に一切連絡がいかず、迷惑をかけずに済むはずです。
この方法の前提となるのは、「保証人付きの借金の返済を、自分の収入で続けられる見込みがあるか」という点です。もし保証人のついていない借金だけを整理して返済負担が軽くなれば、保証人付きの方は継続できるという見通しがあれば、この方法は非常に有効です。
ただし、注意すべきこともあります。それは「任意整理後の返済と、保証人付き債務の返済が、合計で本当に無理なく続けられるか」ということです。無理な計画を立ててしまうと、結局また支払いが滞り、そのときには保証人にも影響が及んでしまいます。このあたりは、専門家と相談しながら現実的な返済計画を立てることが欠かせません。
保証人への説明・相談から関係を維持するポイント
次に大事なのは、保証人への説明です。どんなに慎重に手続きを進めても、いざというときのために保証人になってもらった相手に対して、何も伝えずに進めるのは誠実とは言えません。もちろん、保証人に迷惑をかけないように整理を進めるのであれば、「迷惑はかけません」と安心してもらえる形で事前に伝えることが、信頼関係を守る鍵となります。
まず伝えるべき内容は、以下の3点です。
1.「今の状況と、任意整理を考えている理由」
例:「複数の借金の返済が厳しくなってしまい、専門家に相談したところ、任意整理という方法があると教えてもらいました。ただ、あなたに保証人になってもらっている借金は、きちんと自分で返し続けるつもりです。」
ここでは、「あなたに迷惑をかけるつもりはない」というメッセージを明確に伝えることが大切です。
2.「手続き後の見通し」
例:「任意整理をすることで、他の借金の返済負担が減るので、保証人付きの分についてはきちんと返済を続けていけると考えています。」
具体的な計画があることを伝えることで、相手も安心しやすくなります。曖昧なまま「大丈夫だと思う」と伝えるのではなく、「専門家と相談して、こういう計画で進める予定です」と説明できると、より誠実な印象を与えられるはずです。
3.「今後どうなったら連絡するか」
万が一、保証人付きの返済が難しくなった場合には、早めに相談するという意思を伝えておくことも重要です。
例:「もし万が一、返済が厳しくなったときには、事前にきちんと相談します。」と伝えておけば、相手も突然の連絡に驚くことなく、ともに対応を考える準備ができます。
この説明をするにあたっては、タイミングも重要です。専門家に相談し、現実的な見通しが立ったタイミングで伝えるのが適切です。逆に、不安だけが先行して「何か問題が起きそうだから一応言っておく」という曖昧な段階では、かえって相手を不安にさせてしまうこともあります。
また、伝える方法も大切です。可能であれば、対面で話すのが最も誠実な方法です。難しければ電話でも良いのですが、メールやLINEだけで済ませてしまうのは、軽く扱われていると感じさせてしまう恐れがあります。相手への配慮と感謝の気持ちを、言葉と態度でしっかり示すことが、関係を維持する上での最低限のマナーです。
保証人・連帯保証人と一緒に手続きする場合の注意点
それでも、どうしても保証人付きの債務だけを返し続けることが難しい場合や、保証人自身も経済的に厳しい状況にある場合には、「保証人と一緒に任意整理をする」という選択肢もあります。これは決して珍しいことではなく、実際に夫婦や親子などで同時に手続きを進めるケースは少なくありません。
この方法のポイントは、「一緒に整理することで、債権者との交渉がスムーズになる場合がある」という点です。保証人だけが後から請求を受けて困るよりも、あなたと保証人が同時に弁護士に依頼し、債権者に対して「両者とも支払いが困難な状況にある」と伝えることで、現実的な返済計画を提案しやすくなることがあります。
ただし、注意すべき点もあります。
まず、「保証人の同意が絶対に必要」です。保証人が任意整理を望まない場合に、無理に説得することはできません。また、任意整理をすると、保証人の信用情報にも事故情報が記録される可能性があるため、そのことを十分に理解してもらう必要があります。信用情報への影響というのは、いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれるもので、信用情報機関に債務整理の情報が記録されます。例えば「今後5年程度はクレジットカードが作れなくなる」「住宅ローンや自動車ローンの審査に通りにくくなる」といったもので、保証人の今後の生活設計にも関わるため、安易に勧めるべきではありません。
次に、「それぞれの返済能力を正確に把握する」ことも重要です。あなたと保証人の両方が同時に任意整理をする場合、両者の収入・支出の状況を正直に弁護士に伝え、どちらがどの程度の返済を負担できるのかを明確にしておく必要があります。「なんとなく一緒にやれば安心」という曖昧な認識のまま進めてしまうと、後になって「こんなはずじゃなかった」という事態になりかねません。
また、債権者との交渉の進め方についても、弁護士や司法書士などの専門家とよく相談することが大切です。債権者によっては、保証人が一緒に手続きをすることで交渉がスムーズに進む場合もあれば、逆に厳しい対応を取る場合もあります。このあたりは、債務整理の経験が豊富な弁護士や司法書士であれば、過去の事例や債権者の傾向を踏まえたアドバイスができます。
任意整理は、「保証人に迷惑をかけないために選べる手段がある」という意味で、非常に柔軟な制度です。保証人がいるから諦めるのではなく、むしろ保証人との関係を守るために、どう整理するかを戦略的に考えることが大切です。
【ケース別】保証人問題の注意点と対処法
任意整理を考えたとき、保証人の立場や借金の種類によって、起こりうる状況も取るべき対応も大きく変わります。ここでは、実際によくあるケースごとに、どんな注意が必要で、どう向き合えばよいのかを具体的に見ていきましょう。
奨学金の保証人と任意整理
奨学金の返済が苦しくなったとき、奨学金には「連帯保証人」と「保証人」の両方がついているケースが多く、任意整理の対象に含めると、まず連帯保証人に一括請求が届くことになります。連帯保証人は主たる債務者とほぼ同様の立場にあるため、「まずは本人に請求してほしい」という主張は通りません。
例えば、親が連帯保証人、親戚が保証人になっている場合、あなたが任意整理を始めた瞬間に親のもとへ督促状が届き、全額を請求されてしまいます。親が支払えない場合は、次に親戚である保証人へ請求が回ります。こうした連鎖が起きることを事前に理解しておくことが重要です。
もしあなたが任意整理を進めるなら、奨学金だけは対象から外すという方法があります。任意整理では「どの債権者を対象にするか」を選べるため、奨学金は通常どおり返済を続けながら、他のカードローンやクレジットカードだけを整理することで、保証人への影響を最小限にとどめることが可能です。ただし、その分だけ減額できる範囲が限られてしまうため、毎月の返済額がどのくらい軽くなるのか、冷静にシミュレーションする必要があります。
一方で、すでに滞納が続いており、奨学金の返還が厳しい状況であれば、早めに保証人と率直に話し合うことも大切です。何も知らせずに突然請求が届くよりも、あなたから事情を説明し、一緒に対応を考える時間があるほうが、保証人にとっても心の準備ができます。
住宅ローンの保証人
住宅ローンに保証人がついている場合、任意整理の対象に含めるかどうかは慎重な判断が必要です。住宅ローンを任意整理の対象にしてしまうと、銀行は残債の全額を一括で請求する権利を持つことになります。そして、あなたが支払えなければ、保証人にその請求が移ります。さらに、返済が滞った時点で金融機関は担保である自宅を競売にかける手続きを進めるのが一般的です。
例えば、夫婦で住宅ローンを組んでおり、配偶者が連帯保証人になっているケースでは、夫が任意整理をした時点で妻に請求が届きます。妻も支払えなければ、家は競売に出され、住む場所を失うだけでなく、売却後の残債まで夫婦で負担することになります。こうした事態を避けるには、住宅ローンは任意整理の対象から外し、通常どおり支払いを続けることが基本となります。
ただし、住宅ローン以外の借金が膨らんでいて、そもそも住宅ローンの返済すら維持できない状況であれば、任意整理ではなく「個人再生」を検討することも選択肢となります。個人再生には「住宅資金特別条項」という制度があり、これを利用すれば自宅を手放さずに他の借金を大幅に減額できる可能性があります。この場合でも、保証人への影響は避けられないため、事前に保証人となっている家族と情報を共有し、どう進めるかを話し合うことが不可欠です。
また、住宅ローンに「保証会社」が入っている場合、保証人は実質的に保証会社が担うため、家族が直接請求を受けることは少なくなります。ただし、保証会社が支払った後、保証会社はあなたに対して「求償権」を行使してきます。この点も含め、保証人の有無や種類をローン契約書で確認しておくことが重要です。
家族が保証人の場合
「家族が保証人になっている借金を任意整理の対象に含めると、家族に迷惑をかけることになる。」
この現実は、多くの人が最も恐れる状況です。特に親や兄弟が保証人になっている場合、あなたが任意整理を始めた時点で、債権者はあなたではなく保証人である家族に対して、残債の一括返済を求めてきます。連帯保証人であれば、この請求をほぼ拒否できません。
例えば、消費者金融から80万円を借りていて、兄が連帯保証人になっていたとします。あなたが任意整理を始めると、債権者は兄に対して「80万円を支払ってください」と請求します。兄が支払えなければ、兄もまた債務整理を検討せざるを得なくなる可能性があり、家族全体が経済的に追い込まれるリスクがあるのです。
こうした事態を避けるために、前述のとおり、家族が保証人になっている借金だけは任意整理の対象から外すという方法があります。任意整理では「選択的整理」といって、特定の債権者だけを外すことが可能です。この選択をすれば、保証人への請求は発生せず、あなたが引き続き返済を続ける形になります。ただし、やはり整理できる借金の範囲が狭まるため、毎月の返済負担がどの程度軽くなるのかを含め、慎重な判断が求められます。
保証人が支払えないときの対処法
あなたが任意整理を始めたことで、保証人に請求が回ってしまった…
しかし、その保証人自身も経済的に余裕がなく、支払えない…
こうした状況は決して珍しくありません。この場合、保証人もまた債務整理を検討する必要が出てくることがあります。保証人が支払えない場合、債権者は法的手段を取ることができ、給与の差し押さえや財産の差し押さえといった強制執行に流れに進む可能性があるからです。
例えば、親が連帯保証人になっていて、あなたの任意整理によって親に80万円の請求が届いた場合、親が支払えなければ親自身も任意整理や自己破産を検討することになります。親が年金生活者であれば、年金は原則として差し押さえできませんが、預金口座に振り込まれた年金は差し押さえの対象になることもあるため、注意が必要です。
保証人が支払えない場合の対応として、まず考えられるのは「保証人も含めた債務整理」です。保証人が任意整理をすれば、債権者と交渉して分割払いに応じてもらえる可能性があります。また、保証人の収入や資産の状況によっては、個人再生や自己破産を選ぶことで、借金の負担を大幅に減らすことができる場合もあります。ただし、保証人が自己破産をすると、一定の財産を処分する必要があるため、家族全体にとって大きな決断になります。
もうひとつの選択肢は、あなた自身が任意整理ではなく「自己破産」や「個人再生」を選ぶことで、保証人への影響をあらかじめ見越した計画を立てることです。これは一見矛盾しているように思えるかもしれませんが、保証人への請求が避けられない場合、あなたが中途半端に整理を進めるよりも、早期に全体の債務状況を整理したほうが、保証人も含めた解決の道が見えやすくなることがあります。
また、保証人に対して債権者が請求をしてきた場合でも、すぐに諦める必要はありません。保証人が「時効の援用」を主張できるケースや、過去の返済に「過払い金」が含まれているケースもあります。過払い金については、「過払い金返還請求」をすることで、過去に払い過ぎた利息が戻るかもしれません。保証人が支払えない状況にあるなら、あなただけでなく保証人も一緒に専門家に相談し、法的な視点から最善の対応を探ることが、結果的に家族全体の負担を和らげることにつながります。
任意整理で保証人の問題を確実に解決する方法
借金を抱えながらも、保証人に迷惑をかけたくないという思いで、返済を続けている方は少なくありません。しかし、無理な返済を続けるよりも、専門家に相談することで、あなたにも保証人にも負担の少ない解決策が見つかる可能性があります。
専門家への相談のすすめと準備すべき情報
専門家に相談することで、あなたの借入状況や保証人との関係性を総合的に判断し、最も現実的な解決策を提案してもらえます。例えば、保証人が付いている債務については整理せず、保証人がいない債務だけを対象にする「一部の債権者のみの任意整理」という方法で進めることができるかもしれません。このように、柔軟な対応が可能かどうかは、専門家の知識と経験によるところが大きいものです。
また、専門家に相談することで得られるのは、法律知識だけではありません。保証人が親や兄弟といった身内である場合、「何から話せばいいか分からない」「怒られるのが怖い」という感情が先行しがちですが、専門家と一緒に整理することで、冷静に状況を説明できるようになるはずです。専門家は、あなたの味方であり、秘密は厳守されるので安心してください。
専門家への相談で用意すべき情報
・現在の借入状況が分かる資料
契約書や明細書、返済予定表等、どこからいくら借りているか、利息や毎月の返済額がどのくらいかを把握できるものを用意しましょう。複数の借入先がある場合は、それぞれについてまとめておくと、専門家が全体像を理解しやすくなります。
・保証人がいる債務とそうでない債務の区別
どの債務に誰が保証人として付いているのかを明確にすることで、任意整理の対象をどこまで含めるかの判断材料になります。保証人との関係性(親、配偶者、友人、会社など)も併せて伝えると、専門家はより現実的なアドバイスがしやすくなります。
・収入と支出の状況
給与明細や源泉徴収票、家計簿やレシートなど、毎月どのくらいの収入があり、何にいくら使っているかを把握できるものがあると理想的です。これにより、任意整理後にどの程度の返済が可能か、保証人への影響をどこまで軽減できるかが見えてきます。
・今後の返済見込みや生活の変化
転職の予定がある、扶養家族が増える、医療費がかかる見込みがあるなど、将来的な変動要因があれば、それを踏まえた長期的な返済計画を立てることができます。
相談の際に気をつけたいのは、「恥ずかしい」「怒られるかもしれない」といった感情から、情報を隠したり曖昧にしたりしないことです。専門家は日常的に多くの債務者と向き合っており、あなたの状況を責めるために存在しているわけではありません。むしろ、正直に話すことで、より的確なサポートが受けられます。
また、初回相談は無料で行っている事務所も多く、複数の専門家に相談して比較検討することも可能です。
法律の最新動向・今後注意すべき点
近年、保証人制度に関する法整備は着実に進んでいます。代表的な例として、2020年4月施行の改正民法により、個人が事業用貸金の保証人(個人根保証契約)になる場合には、公証人による保証意思確認が義務化されました。
この手続きを経ずに保証契約を結んだ場合、その契約は無効となる可能性が高いとされており、保証人が内容を理解しないまま署名してしまうトラブルを防ぐための重要な仕組みです。あなたの保証人がこの確認手続きを経ていなかった場合、その保証契約の有効性が問題になる可能性もあります。
また、改正民法では、保証人が債務の状況を知りたいと申し出た際、債権者が必要な情報を提供する義務も設けられました。これは保証人が不必要なリスクを抱えないようにするための保護制度で、今後さらに制度が強化される可能性があります。
一方、任意整理は裁判所を通さない私的な交渉のため、裁判所の決定に強制力が生じる自己破産や個人再生と異なり、債権者に応じる義務はありません。近年は、銀行系カードローンや大手消費者金融などで交渉条件が厳しくなる傾向があり、かつては可能だった「保証人に請求しない」という合意が得られにくくなっているケースも見られます。
債権者側が保証人への求償権を残したまま和解する例が増えており、保証人保護のためには細心の注意が必要です。
さらに、コロナ禍以降の経済変動により、返済困難に陥る人が増え、結果として保証人への影響が広がったという指摘もあります。返済猶予や助成金などの支援制度が縮小する中、任意整理のタイミングを早めに見極めることが、保証人への負担を避けるうえで非常に重要です。
信用情報を巡っても、デジタル化やAI審査の導入により、今後は信用評価がより細分化される可能性があります。たとえば、
「任意整理をしたが完済した」
「その後の延滞が一切ない」
といった行動履歴が積極的に評価される仕組みが導入される可能性もあります。逆に、保証人の信用情報に関しても、将来はより詳細な情報管理が行われる可能性があります。
これらの動きを踏まえると、任意整理を検討する際には、自分の信用だけでなく、保証人の将来のローンや事業計画への影響も考慮して判断する必要があります。保証人が将来住宅ローンや事業融資を受ける予定がある場合は、特に慎重な対応が求められます。
まとめ
任意整理は、あなたの借金の負担を軽減できる可能性がある手続きです。しかし、保証人がいる場合には「自分だけの問題」では済まない部分があることも事実です。
任意整理を行うと、保証人には一括請求が届く可能性が高くなります。これは債権者からすれば当然の権利です。しかし、保証人にとっては予期せぬ負担となり、場合によっては関係悪化や保証人自身の生活にまで影響を及ぼしてしまう可能性があります。だからこそ、任意整理を選択する際には、保証人の存在を忘れず、事前に誠実なコミュニケーションを取ることが何よりも重要です。
保証人に連絡を取るタイミングは「任意整理を決断する前」が理想的です。正式に手続きに入ってから伝えるのではなく、検討している段階で「実は返済が厳しくなっていて、こういう方法を考えている」と率直に話すことで、保証人も心の準備ができるだけでなく、一緒に解決策を模索する時間を持つことができます。ときには保証人が「少し待ってほしい」「分割で返す方法はないのか」といった提案をしてくれることもあるかもしれません。もちろん、伝えることに勇気が要るのは当然です。しかし、後から事実を知ることのほうが、信頼関係に大きな傷を残してしまいます。
もしどうしても直接話すことが難しい場合には、弁護士や司法書士に相談して、間に入ってもらうことも一つの方法です。また、任意整理の「対象を選べる」という特性を活かせば、保証人付きの借金を対象から外し、他の借金だけを整理するという方法もあります。すべての借金をまとめて整理しなければならないわけではないので、保証人への影響を最小限に抑えつつ、自分の生活を立て直す道を探ることも十分に可能です。ただし、こうした判断は法律の知識や実務経験がないと難しい部分も多いものです。
くすの木総合法務事務所は、借金問題の解決を専門とする、経験と実績のある事務所です。借金問題は、時間が経過してしまうと、選択肢が狭まるだけでなく、その影響や費用の負担も大きくなるものです。電話やメールでのご相談を24時間無料で受付しておりますので、まずはお気軽にご相談いただきたいと思います。











